2005年8月16日火曜日

インド語班の木下さん

〔えいが〕

地震、びっくらこきました。
でも、午後は、フィルムセンターへ。

『特別任務班 日露戦争秘史 興亜の人種』
1941年、旭日映画。山下元廣監督。浅岡信夫、福田満州主演。

「日露戦争時の歴史的人物である横川省三と沖禎介を主人公にした戦意高揚映画。北京において結成された「特別任務班」の一員として、ロシア軍に対する諜報活動を行っていた横川省三と沖禎介らは、1904年に鉄道爆破を図ったがロシア軍に捕らえられて銃殺される」(解説より)。

チベット仏教の僧に化けた横川さんと沖さんが正体を見破られてロシア軍に捕らえられたそのきっかけが、僧が持っているはずのない物を持っていたためだった、というあたり、言っちゃあなんだがとてつもなくま○け(ちょっと自粛表現にしてみました)な気が・・・・。
だもんで、捕らえられた後の2人の態度の立派さ(つまりは日本精神の立派さってことね)にロシア人が感心したというエピソードをこれでもかこれでもかと見せられても、「はじめにま○けありき」だったもんだから、説得力ほとんど感じず。

白系ロシア人を大挙動員したハルピンロケ映像は、興味深く観ました。

『姿なき敵』
1945年、大映東京。千葉泰樹監督。宇佐美淳、佐伯秀男、山本冬郷主演。

「太平洋戦争下、アジア各地で対敵プロパガンダ放送に従事した「放送決死隊」の活躍を描いたもので、メディア戦争の系譜を知る上で貴重な作品。日本放送協会(NHK)の協力のもとに製作された。主人公がラジオ放送によって反日運動に参加している中国人を説得するシーンの一部が欠落しているが、話の流れをつかむことは可能である」(解説より)。

千葉監督、こんな映画も作っていたのね。

ビルマでイギリス軍のプロパガンダ放送に従事している中国人の声が、かつて自分の父親が可愛がっていた留学生・陳青雲(劉青雲じゃなくて)の声に違いないと確信した北京語班の女性アナウンサーが、放送決死隊に参加してビルマに向かう英語班の男性アナウンサーに、「彼の日本人に対する誤解を解いてほしい」(誤解じゃないってば)と頼みます。
で、ビルマへ行った男性アナウンサーは放送を通じて陳君の説得を試み、その結果、陳君ったら対日協力派になるのでありました。

それ以前のプロパガンダ映画に登場する反日中国人が女性だったのに対し、ここでは男性がその役割を担っています(ま、愛だの恋だのというネタでもないですしね)。
ただそうなると、よく語られる図式「日本人男性=正義の象徴によって愚かな誤解から救い出され、真実に目覚める中国人女性=劣ったもの」はどうなるんでしょ。
さらに遡って考えると、今回の特集で上映された『民族の叫び』(1928年)できわめて親日的な中国人が登場していたのは、15年戦争突入前だったせいなのでしょうか。
っつーことは、

開戦前:親日中国人(男女問わず。国際ロマンスあり)→開戦後前期:反日中国人(女性。日本人男性により親日に転換)→開戦後後期:反日中国人(男性。日本人男性により親日に転換)

てな登場人物の系譜になるのかしらん。

ところで、始めのうち観ていてすっごく謎の人物だったのが、ターバン巻いて黒塗りをしたインド語班の木下さん。
いったい何人なのかが全くつかめなかったのですが、その後、唐突に正体が判明。

インド国民軍の参謀・ナントカカントカ(なんかむずかしい名前で、よく聞き取れませんでした)。

木下って、誰がつけた日本名なんだろ。

この木下さん、シンガポール陥落後は自由インド仮政府の幹部となり、ビルマで英語班のアナウンサーと再会いたします。
ただし、この時代になると現地ロケなんてできる状況ではなかったため、富士山麓あたりをビルマに見立てているようです。

寒そう、ビルマ。

それから、シンガポール陥落時に挿入される記録映像の中で、ちらりと映るのがキャセイ・ビルディング。
日本軍に接収されたから映るのも当然なんだけど、何たる運命の不思議。
この映画から16年後の1961年、千葉監督はそのビルの元の主であるキャセイ・オーガニゼーションと東宝の合作映画『香港の夜』を撮るのでありましたよ。
ついでに言うと、キャセイのオーナー・陸運濤は、戦時中に乗っていた船が日本軍に攻撃されて大怪我を負ったものの九死に一生を得たという逸話の持ち主。
そんな陸運濤は、戦後の1960年、「日本映画の紹介に尽力した」功績を称えられ、勲四等瑞宝章を受けています。
これも、運命の不思議?


(於:フィルムセンター)

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