〔しようもない日常〕
一昨日のシンポジウム&映画上映会の報告をさくっと。
第1部のシンポジウムのテーマは、「国際的グローバル化状況における中国語圏映画の可能性」。
全部で3本の研究発表というか報告がありました(詳しい題目は11月1日の記事をご参照下さい)。
最初の陳先生の発表は通訳を介してのものだったため、やや話が見えにくかったのですが、中華圏の観衆が周潤發の北京語を聞いて笑い出した、とか、いわゆる「新派武侠映画」を見慣れた観衆にとってはあの映画(『グリーン・デステイニー(臥虎藏龍)』は到底武侠映画とは呼びがたいものであった、とか、いちいち「ふむふむ」と思いつつ聞いておりましたです。
ただ、通訳の方があの映画で周潤發が「広東語を話していた」と訳していた為、会場にいた映画を観ていない方やあるいは北京語と広東語の区別がつかない方々は、皆さんその翻訳を真に受けていたようなので、それがひじょーに気がかりです。
發哥が話していたのは、あくまでも「広東語訛りのきつい北京語(聞き取りづらいわ)」なんですけどね。
きさらぎ先生のお話は、ハリウッドに進出した華人とそのお仕事の状況及び近日公開の映画『さゆり』について。
『さゆり』に関しては、予告編や写真がネット上で閲覧できるので、すでにどんなもんかは予測できますし、あっし自身は「『フラワー・ドラム・ソング』も華人の話なのに日本人(ナンシー梅木)&日系人(ジェームズ繁田)が主役だったから(ナンシー・クアンも出てるけど)、ハリウッドって、40年以上経ってもあんまり変わってないのね」と思う(諦める?)ようにしております。
でも、会場にいた皆さん、特にお若い方(学生さん。このシンポジウム出席を以って授業の出席に代えるというありがちな展開)の中には、「欧米人が作るんだから、別にきちんと考証しなくったっていいじゃん」という考えの方がけっこういらっしゃったのには、ちとびっくりいたしました。
段先生は専門が政治学なので、報告の内容も政治経済の話が中心。
グローバル化全般に関するレクチャーとして聞きました。
実は不肖せんきち、段先生が大学院生の頃(8年前)半年ほど先生から北京語を習っていたことがあり、久方ぶりにお目にかかってご挨拶いたしました。
先生、すっかりご立派になられて、せんきちはとっても嬉しゅうございます(涙)。
で、午後。
東京国際映画祭で上映された2本のドキュメンタリー(『台湾黒電影』『非婚という名の家』)が、こちらでも上映されました。
上映後にはQ&Aもあり、侯監督(『台湾黒電影』)は台湾へすでにお帰りになっていたため欠席でしたが、陳監督(『非婚という名の家』)は出席なさっていました。
『台湾黒電影(台灣黑電影)』
2005年、台湾。侯季然監督。
詳しい内容はこちら。
台湾でこの手の映画がブームになったことは、本作で取材を受けている李泳泉氏の著書(『台灣電影閲覧』)や、あるいは浦川とめさんの『もっと楽しい台湾映画 1』(1999年、賓陽舎。最初の黒電影とされる『錯誤的第一歩』の監督である蔡揚名監督や、朱延平監督へのインタビューが収載されています。必読!)を読んで知ってはいましたが、詳しく調べようとすると手頃な資料がなくて、「なんでだろう?」と不思議に感じていたところ、なーんだ、封印されていたんですね。納得。
映画祭のティーチインの時、日本や香港の同ジャンルの映画との影響関係が指摘され(『少女集中營』なんて、まんま『女集中營』のパクリみたいだし)、あっしも監督とお話しする機会があったさい、その件に触れたのですけど、後になって気付いたのが、台湾語映画との繋がり。
本作には『女王蜂』という映画が登場しますが、1962年にも台湾語映画で同名の作品があり、せんきちは未見ですが、タイトルから考えてそれが新東宝の「女王蜂」シリーズの影響下にある作品であることは容易に推察できます。
それから、同じように日本の海女映画に影響されて、台湾語映画でもかなりの数の海女映画が製作されていました。
つまり、台湾語映画には同時代(1960~70年代初め)の北京語映画に比べるとはるかに扇情的な要素の濃い作品が多く、そのエッセンスが後年の黒電影にある程度引き継がれたということはないのだろうか、というのがせんきちの疑問なのであります(蔡揚名監督はそもそも台湾語映画出身ですし)。
しかし、残念ながら監督は欠席だったため、陳先生(映画にも登場します)が代わりに質問に答えてくれましたが、回答はあっさり「両者の間には何の関係もない」というものでした。
ほんとかなあ。
なんだか釈然としない気分でいたら、会の終了後、別の方から「全く関係ないなんてことはないですよね、絶対」と言われました。
やはりあっしと同じ考えの方がいたのだと思うと同時に、台湾映画史の中で抹殺されてきたこれらの映画たち(だいたい台湾語映画だって長いこと抹殺されてたんですし)が、きちんと陽の目を見るよう、もっともっと研究していってほしいものだと思いました。
『非婚という名の家(無偶之家 往事之城)』
2005年、台湾。陳俊志監督。
詳しい内容はこちらとこちら。
自身、ゲイである陳監督は、ゲイのコミュニティを描きながら、そこから家族や愛する者の生と死といった普遍的な問題を浮き彫りにします。
しかし、あっしがぶったまげたのは、会場内の皆さん、特に男性の方々の同性愛に対するモーレツな拒絶反応。
映画の出来不出来以前の問題で終わっちゃった気も。
どういうわけか、男性の方々、陳監督への質問の冒頭に必ず、
僕はノーマルですけど
という枕詞をくっ付けるのですよ。
それを言うなら「ストレート」って言えよ、と思いつつ、もしやこれって、
僕には近寄らないでね(言い寄らないでね)。
という予防線(?)を張っているのかな、とも思い、いささか奇異な感じがしました。
また、正直言って「えっ?」と耳を疑いたくなるようなあんまりな質問も出たのですが、そんな質問にも笑顔を絶やさずに1つ1つ丁寧に答えていたミッキー(陳監督の英文名)、
あんたはエライ!
というわけで、会はおしまい。
この後、陳監督とお食事&飲みをする機会に恵まれました。
やっぱり、いい人でした。
(おしまい)
付記:黒電影の代表作の1つで、陸小芬が一躍人気女優になった『上海社會檔案』、VCDが出ています(あっしもさっそく注文しました)。メーカーは、レア物ならおまかせ(?)の海岸。ありがたや。
こんにちは。ぐりです。早速やってきました。
返信削除そっかーティーチインいまいちだったのですね。残念ですね。
私は映画祭での最終の上映でティーチインに参加できたのですが、監督かなり遠くに座ってる私(質問者)の目をじーーっとみつめながら、一生懸命お話してくれて、いい人だなと思うと同時に、単なる映画監督としてではなくゲイ・アクティビスととして自分がどうしたいか、ということをすごくよくしってる方だなという印象を受けました。
映画そのものはもう号泣してしまいました。
すごくいい作品なので、また上映してほしいものです。
ぐりさん
返信削除こんにちわ。
そうなんですよ。
まさかあんな展開のティーチインになるとは思わず、がっかりしちゃいました。
「あんまりな質問」も、ほんとに「あんまりな質問」で(いろいろ事情があってここでは詳しく書けないんですけど)、引いてた人も多かったようです(後でいろいろな人が「あれはないよね」と言っていました)。