中国語を習い始めたばかりの頃、一番役に立ったのが、
あれと同じのをください。
という表現。
見知らぬ土地の見知らぬレストランでメニューも読めず困ったとき、お向かいや隣りのテーブルでホカホカ湯気を立てているおいしそうな料理を指差してはこの台詞を連発、飢えをしのいだものでした。
しかし、その当座は「今、飯を食らうこと」で頭の中がいっぱいだったため、いつもボーイさんに料理の名前を聞くのを忘れてしまい、2度と同じものを食べることができないという間抜けなせんきちでありました。
そして、「あれと同じのがほしい」といえば、思い出すのが邵逸夫と井上梅次監督のこんなエピソード(強引な持っていき方やね)。
邵逸夫が井上監督に3人のスチュワーデスが出てくるアメリカ映画(注)を見せて、「これと同じのを作ってくれ」と迫りましたが、井上監督は「著作権というものがあるのですよ」と拒否、それを聞いた邵逸夫は、
香港に著作権はない。
と豪語、その結果生まれたのが、3人娘が主人公の映画『釣金龜』だったそうです。
じっさい、邵氏の作品にはどこかで観たような映画がけっこうあって、井上監督は(オリジナルに)似たような別の映画や自作のリメイクをもっぱら撮っていましたが、同じ日本人監督でも村山三男監督などは『ダイヤルMを廻せ!』の翻案である『殺機』を撮っています。
他にもちょっと変わったところでは、旧ブログで紹介した『紅粉煞星』はパム・グリアの『コフィー』の翻案ですし、張徹監督の『大盗歌王』はヒッチコックの『泥棒成金』の翻案、また、これは邵氏作品ではありませんが、同じく張徹が脚本を書いた『桃花涙』(羅維監督。尤敏主演)の元ネタは、アメリカ映画『わが愛は終りなし』だそうです。
最近、巷では話題のドラマ『輪舞曲』のパクリ問題で論議白熱のようですけれど、かつては「あれと同じの」を作る側だった香港映画が、いまや翻案される側になったという、それはそれでまた感慨深いものがございますです、はい。
(注)伊藤卓氏は、このスッチー映画のことを「『ボーイング・ボーイング』(65)だろう」としていますが(『アジアの風2005』カタログより)、あっしはてっきり『翼のリズム』だと思ってましたわ。
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