2011年5月15日日曜日

証言 日中映画人交流

〔ほん〕〔えいが〕〔ちょっとお耳に〕

近頃の世間では「無口で不器用な男」と思われている健さんが、
この本のインタビューでは「僕、自分では不器用だと思っていませんけどね」
ときっぱり。私もおしゃべりな健さんが好きです。

2011年、集英社(集英社新書)。劉文兵著。

2006年に出版された『中国10億人の日本映画熱愛史 ― 高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで』の姉妹編といえる、劉文兵氏の新著
今回は「日中関係史でも大きな役割を演じた」日本の映画人へのインタビューを中心に、幻に終わった木下恵介監督の日中合作映画『戦場の固き約束』に関する考察等も収載しています。
全体の構成は下記の通り。

はじめに
第一章 高倉健
第二章 佐藤純彌
第三章 栗原小巻
第四章 山田洋次
第五章 木下恵介
一、木下恵介と中国
Ⅰ 目撃者・加担者としての贖罪意識
Ⅱ 羨望の眼差し-一九五六年の訪中
Ⅲ 心の故郷を探して-『戦場の固き約束』における中国のイメージ
二、木下恵介関係者インタビュー
Ⅰ 「木下さんはやっぱり天才でした」-脚本家・山田太一
Ⅱ 『戦場の固き約束』の中国ロケ-プロデューサー・脇田茂
Ⅲ 晩年の木下恵介-最後の助監督・本木克英
おわりに
参考文献

本書の白眉は何と言っても第一章の高倉健インタビュー。
内田吐夢監督とのエピソードを始め、「網走番外地」シリーズ等多くの作品でコンビを組んだ石井輝男監督のことを、

女の裸が好きで、何か、女の裸ばっかり撮っていたらしいんですけど。

と評したり、ぶっちゃけトーク炸裂。
また、

向こうが力任せに来るなと思ったら、もう徹底的に抵抗する。徹底的にしてやるよ、この野郎、って出て来るんですよ、そういうね、不思議な反抗心が。何を言ってやがる、この野郎って。


と、自身の性格を語っている件では、「なんだか、『網走番外地』の橘みたいだなあ」と思いました。
そして、そんな健さんが「何でもしてあげたい」と思ったという宋之光氏との交流は、まるで橘と鬼寅親分の関係のようにも思えましたです。

インタビュー後半の中国映画に関する部分では、「"大きな声で言わない"っていうような映画」というコメントが特に印象に残ります。

そういえば、健さんも第二章の佐藤監督も共に東映出身ですけれど、東映時代の映画は一部を除いて中国本土では全くメジャーでないというのが不思議な共通点と言えるでしょう。
東映好きの私としては、大いに不満なのですが(まあ、難しいと思うけど)。

その佐藤監督のインタビュー、東映でも東大出身の監督さんたちはけっこう理屈っぽい方が多い印象があるのですが、佐藤監督もやっぱり理屈っぽいなあと思いました。
でも、「不良性感度」映画を確立した岡田茂名誉会長も東大出身なんですけどね。

というわけで、健さんのインタビューを読むだけでも、この本を購入する価値は大いにあるのですが、通読して若干違和感を感じたのが栗原小巻のインタビュー。
今でも本気で共産主義マンセー!社会主義マンセー!と思ってのコメントなら致し方ないものの、ただただ中国と彼の国の文化人を褒めちぎるコメントのみで、具体的な内容に乏しい気がしました。
陳沖や劉曉慶に関する見解も、どの作品のどんな演技が素晴らしかったのか、印象深かったのかについて語ること、それこそが読者の求めている内容だと思うのですが。

最後に、健さんインタビューを読んで残念だと思ったことを一つ。
それは、樂蒂に関する質問がなかったこと。
ご存知の通り、制作中止にはなりましたが1962年の東映・邵氏の合作映画『香港旅情』で2人は共演することになっており、記者会見及びスチール撮りのさいに1度だけですが顔を合わせています。
樂蒂と日本映画人というと『最長的一夜』で共演した宝田明が有名で、インタビューも残されていますが、現時点において健さんのコメントは全くありません。
今でも樂蒂のことを覚えているか、覚えているとしたらどんな女優さんだと思ったか、それを知りたいと思っているのは私1人だけではないと思います。

ということで、今1度取材するチャンスがあったら、今度はぜひ樂蒂のことも聞いて下さい。
よろしくお願いします。

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