2005年2月7日月曜日

新寡 (A Widow's Tears)

〔えいが〕



1956年、香港(長城)。朱石麟監督(龍凌, 陳靜波共同監督)。夏夢、鮑方、許先、樂蒂主演。

左派(共産党寄り)の製作会社である長城の文芸映画。
韓国ドラマも顔負けのドロドロコテコテな未亡人受難物語でした。

いつもながらのアバウトなストーリーは、下記の通り。

方湄(夏夢〔シア・モン(ミランダ・ヤン)〕)は、優しい夫の沈逸才(許先〔シュウ・シェン〕)と幸せに暮らしていました。
ところが、結婚記念日に逸才が交通事故死してしまいます。
突然の夫の死を受け入れることができない湄は病の床に臥しますが、そんな湄を夫の親友である劉時俊(鮑方〔バオ・ファン〕)は優しく慰め、彼の助力によって湄は次第に立ち直り始めます。
しかし、逸才の生前から湄のことが気に入らなかった姑の沈夫人(劉甦)は、逸才が湄を受取人にしてかけていた保険金を横取りして、その中から手切れ金を与え、湄を追い出そうとします。
が、再婚する気など毛頭ない湄は、そのことを姑に告げ、金を受け取ることはありませんでした。
その後も姑と夫の従姉妹、夫の妹(樂蒂〔ロー・ティー〕)たちによる湄への苛めはさらにエスカレート、特に妹の文娟は湄が自分の恋人(曹炎)を誘惑したと勘違いして、湄を激しく詰るのでした。
ついに家を出る決心をした湄でしたが、そんな時、湄の妊娠が発覚します。
姑たちは時俊との間の子供だろうと湄を叱責するものの、診断の結果、逸才の子であることが判明します。
すると、手のひらを返したように姑たちの態度が軟化、自分たちとの同居を勧めますが、湄の決意が変わることはありませんでした・・・・。

とにかく、苛めはすごいです。
よくもまあ、そこまでやれるもんだと思うくらい。
でも、自分の子供に先立たれた母親が、その悲しみからこんなにも早く立ち直って、嫁いびりに邁進できるもんかなあと思ったのも、また事実。
それに、なぜそれほどまでに嫁を嫌うのか、その理由があんまり明確ではないため、よけい理不尽な行為に見えましたですわ。

もう一点、あれ?と思ったのが、ヒロインと夫の親友とのあいまいな関係。
色恋抜きで、あんなにも献身的にヒロインに尽くせるものでしょうか?
初めは哀れな未亡人への同情かもしれないけど、そのうちに1人の女として見るようになるのでは?
それとも、純粋なミツグ君(死語)なのかしらん?
また、ヒロインもあそこまで優しくされたら男性の気持ちに気付かないはずがないし、「あなたの気持ちは嬉しいけれど、それでもやっぱり夫のことが忘れられないのよ、アヘアヘ」てな具合に悩み苦しむと思うんですが、そういった心の葛藤がここではきれいさっぱり省略されています。
あくまでも清らかなお付き合いに終始して未亡人の貞操を強調している点に(困ったことがあると、夫の墓の前で日がな一日ぼーっとしちゃったりしてました)、当時の香港社会のまだまだ保守的な倫理観が透けて見えるとも言えますが、やらない方が却っていやらしい気もするなあ。
ただ、最後は迎えに来た親友と一緒に家を出るので、現時点から一歩踏み出す決意を固めたのかも知れませんが。

夏夢は、長城の看板女優だけあって、典型的な江南美人(上海生まれ)でした。
でも、ちょっときつい感じの顔立ちかな。
だから、耐える演技よりもラスト近くの「あんたたちとはもうやってられんわ。あたしゃ出て行くよ!」ってときのちょっと蓮っ葉の表情の方が、断然良かったです。
脇役で苛めっ子やってた樂蒂(こちらも上海生まれ)の顔立ちの方が、柔らかみがありますね。
樂蒂は、長城では脇役として便利に使われることの方が多かったみたいで、本作では今風のわがまま娘を奔放に演じていました。
可愛かったですよ。

ところで、昨日ご紹介した『應召女郎』と本作は北京語映画なのですが、電影資料館所蔵のビデオはどちらも広東語吹替でした。
以前、『桃花涙』(尤敏主演の映画)を観たときも広東語吹替だったけど、もしもオリジナル(北京語版)が残っているのなら、オリジナルと広東語吹替、両方のビデオからチョイスできるようにしてくれるとありがたいんだけどねえ。
あれじゃ、夏夢本人の声が全然わからないもの。
残念ですわ。

付記:夏夢は、『望郷 ボートピープル』や『ホームカミング』のプロデューサーとしても有名です。

(於:香港電影資料館)

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