2005年7月17日日曜日

原住民がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!

〔ちょっとお耳に〕


毎日、暑いですね。
昨日の台湾の国民党主席選挙、「顔だけ男」(好みじゃないけど)と敢えて呼びたくなる馬英九が当選しました。
この方、香港生まれですが籍貫は湖南省。
そして、親民党主席の宋楚瑜は湖南省生まれ。
台湾の外省人社会も「湖南・ザ・グレート」なのかしらん?

さて。

1950年代から60年代にかけて、日本映画は台湾でも大変人気がありましたが、『週刊明星』1963年10月20日号掲載の「歌手・前田通子の新しい出発 自由中国の大スター・前田通子」には、こんな記述が見えます。


昨年(1962年・せんきち注)12月26日、クリスマスをナイトクラブの舞台で過ごしたばかりの彼女(前田通子・せんきち注)は、因縁の深い志村(敏夫・せんきち注)監督とともに台湾へ飛んだ。
あちらでは、『女真珠王の復讐』が戦後興行史上ベスト・2という大ヒット。「ぜひ続篇を」という現地のプロダクション(『華利影片』)の熱望にこたえ、『女真珠王の挑戦(女眞珠之挑戰・せんきち注)』(製作費3千万円)を撮ることになったのである。
映画はまたしても大当たりで志村監督の表現を借りれば、「高砂族(原住民・せんきち注)まで山をおりて劇場へ押し寄せた」ほど。
その舞台挨拶に立った前田は、妖艶な中国服姿で主題歌を歌いまくり、嵐のような拍手を浴びた。
大喜びの『華利影片』にひきとめられた彼女は、さらにメロ・ドラマ『別離(愁風愁雨割心腸・せんきち注)』のヒロイン役をつとめ、クランクアップ翌日の4月7日に帰国した。


元新東宝の女優・前田通子(くわしくはこちらをお読み下さい)が、台湾へ呼ばれて2本主演作品(台湾語映画)を撮ったという話ですが、フィルムが残っていたらいつか観てみたいものです。
しかし、今回注目したのは、志村監督の

「高砂族まで山をおりて劇場へ押し寄せた」

というコメント。
「(その多くが山地に住むという)台湾の原住民が、わざわざ街の映画館まで観に来たほど大人気だった」という意味らしいのですが、この記事から約10年経った1974年に出版された『誰も書かなかった台湾 「男性天国」の名に隠された真実』(鈴木明著。サンケイ新聞社出版局)にも、実は類似の記述があるのです。


台湾における日本映画の最もモニュメンタルな事件は、嘗ての新東宝が作った「明治天皇と日露大戦争」の上映であったといわれている。(略)
特に、この映画に対する「高砂族」の反応は異常なものがあったと伝えられている。彼らはめったに都会に出てくることはないが、この映画見物の為に大挙して都市の映画館にやってきた。台東地区(ここには主としてパイワン族が居住しているが)では、山地にいた高砂族がこの映画のために大挙移動し、そのために社会的な反響までまき起こして、遂に「政府の強い示唆」により、この映画は「自主的に上映をとりやめる」という結果になったといわれている。


「山を下りて来た」どころか、「民族大移動」という事態にまで発展しています。
『週刊明星』と鈴木氏の著書、両者共に、台湾における映画興行成否のバロメーターが、あたかも「原住民がいかなる反応を示したか」にあるかのような書きぶりです。
ここでは日本における例だけを取り上げましたが、「原住民が山を下りて観に来たほどヒットした」という(原住民に対して)あまりにも類型的過ぎる表現が、はたして台湾においても日常的に用いられていたのかどうか、ちいとばかり気になるところです。


ところで、『明治天皇と日露大戦争(明治天皇與日俄戰爭・せんきち注)』に関しては、この他にも「アラカン演じる明治天皇が登場した瞬間、(台湾人の)観客が直立不動になった」や「『天皇陛下、万歳!』を叫んだ」といった伝説(?)が知られていますが、これって、どこかに典拠があるのでしょうかねえ。
文部大臣の「娘義太夫まかりならん」言説みたいな、いつの間にか定説になってしまった幻伝説なのかどうか、一度きっちりウラを取る必要があると思うのですが。
で、これらもろもろの出来事がもとで、映画は上映中止になってしまったらしいのですけれど、呂訴上の『台湾電影戯劇史』(1961年、銀華出版部)によれば、『明治天皇と日露大戦争』は、1957年に30日間上映されて、101万8116.2元の総収入をあげています。

なんだい、1ヶ月も上映されてたんじゃないの。

この辺も要調査ですね。

ちなみに、先だって、台東在住のピュマ族のおじいさんとお話する機会があったのですが、「戦後は、日本人の顔が見たくて日本映画を観に通っていた」というおじいさんにとって、映画の内容や出来は二の次だったらしく、「最も印象に残っている日本映画」としてタイトルを挙げてくれた『青い山脈』についても、

主役は美空ひばり

だと思い込んでおられました。

『明治天皇と日露大戦争』の話は、うっかり聞くのを忘れてしまいましたが・・・・(ざんねん!)。

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