2009年7月1日水曜日

中国人の見た『虞美人』

〔ちょっとお耳に〕〔えいが〕

「旧アーニーパイル劇場」とあるのが、
いかにも時代を感じさせます。

どうも。
トド@毎日疲れていますです。

じゃいけるジル逝去のことは、いまさらなので書きませんが、ジルが亡くなったとき、なぜどのマスコミも中村晃子の所へ行かないのよ?
ジルと言えば中村晃子でしょ?
ジェミーと言えば田島令子、のように(年がばれるね)。

さて。

香港で開催されていた易文監督の回顧上映はとっくに終わってしまいますたが、遅ればせながらこちらでも易文監督のコネタを。

易文監督は日本ともけっこう縁の深かった監督さんで、1955年に『小白菜』が『佳人長恨』の邦題で日本公開されている他、1957年には新華と東和の合作映画『海棠紅(海棠紅)』も日本で上映されています。
このうち、『佳人長恨』は横浜の映画館で「1日限り」の特別上映というかなり特殊な形での公開だったのですが、『海棠紅』は3月9日から15日まで、当時の最高級館と言ってよいテアトル東京(現・ホテル西洋銀座)で上映されており、公開初日には午後7時30分から「中国服モードと歌の夕」なるイベントも開催され、日本公開に当たって東和もかなり力を入れていたことが伺えます。

また、監督作品が日本で上映された他にも、日本でロケーションを行った作品があり(『蝴蝶夫人』『櫻都艶跡』)、1955年4月、『櫻都艶跡』の撮影で日本に滞在していた折には東京宝塚劇場で宝塚歌劇団の『虞美人』を鑑賞、その感想を「中国人の見た『虞美人』」と題した文章にまとめ、『読売新聞』(1955年4月28日付夕刊)に寄稿しています。
以下、少々長くなりますが、その文章からの引用です。


…まず演出の形式として、私はこの歌劇の「素朴の美」を非常に感心した。私は従来から日本の舞台装置のすばらしさに感服していたが、ここでも、三十場の背景がことごとくわずか数筆をもってする軽妙しゃ脱なもので、しかもなんともいえない風情があり、簡単の中に精細があることに感心した。舞台上の照明と色彩の配合もまたすばらしかった。だが、私はなんだか劇そのもののふんいきが十分に出ていないような気がした。(略)
歌はなかなか美しく、感動的であったが「劇」そのものは、あまりにおだやか過ぎるように思われた。「四面楚歌」の場面は単に「末路の英雄」の悲哀だけを表現し「末路の英雄」の性格と心情の描写に欠けている。(略)
また虞美人が剣を抜いて舞い、自殺する場面の処理がやや平淡に過ぎ、激情の高潮点もつかんでいない感があった。この劇は最初から終りまで素材の選択、編成ともに申分ないが、ただこの一段にいたってなんだか食い足りない気がした。しかし情節の叙述は周到をきわめ実によく出来ている。(略)しかし最後の虞美人自殺の場(これは中国京劇の中でも最も難しい主力的場面であって、おのずから『覇王別姫』の精華をなす大切な一段である)は、ただに「劇」であるばかりでなく、劇の本身が「歌」であり「舞」でなければならない。歌の中には自ら曲々調を伝え、断腸の思いを催させるものがあり、舞の中には自らあだ(婀娜)たる姿が千変万化し、剛あり、柔あり、もってよく東洋古典舞踊の特長を発揮するのである。



なんだか翻訳のせいで最後の方なんかわけわからん日本語になっていますが、ようするに、

よくできたお芝居だけど、中国人の目から見たらちょっと物足りないところがあるね。

ってな感じの感想でしょうか。

この記事には易文監督のプロフィールも紹介されていますが、そこには、


筆者の本名は楊彦岐、新聞記者、作家を経て映画入り。シナリオも書き、現在まで十本以上の作品を演出、現在日本ロケを行った『桜都艶跡』を製作中。


とあります。

不肖せんきち、まだ『有生之年―易文年記』を入手していないため、この文章が「著作年表」で取り上げられているか否かの確認が取れないのですが、いずれにしても、かなり貴重な資料ではないかと考えられます。

そして、易文監督と日本との縁で最も忘れてはならないのが、1965年の映画『最長的一夜』。
ご存知の通り、宝田明が香港に招かれて樂蒂と共演した作品です。
この映画、せんきちは運良く観ることができたのですけれど、日本の映画ファンの多くはその存在を知りながら未だに観ることが適わずにいる作品です。
映画のラスト(ネタばれご容赦)、それまで宝田明への警戒心を解くことのなかった樂蒂が(対する宝田明は、樂蒂に向かって日本語で『君のような女性と結婚できた大亮という男性は幸せだ』とか何とかつぶやいたりして、彼女への思いを吐露しているのですが)、宝田明との別れ際に思わず(宝田明に)駆け寄って彼の手を握り締める場面を観るたびに、いつもせんきちの胸は熱くなります。
宝田さんが亡くなる前に(おいおい)日本での上映が実現して欲しいものだと、切に願っております。

(特にオチのないまま終了)

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