2010年1月11日月曜日

「阿魯雲伝」3部作

〔ほん〕〔えいが〕


どうも。
トド@眠いけど眠れないです。

さて、これも去年から積み残しになっていた宿題(前回の記事はこちら)。
金綺泳(キム・ギヨン、김기영)監督の『玄海灘は知っている(玄海灘은 알고 있다)』の同名原作小説に始まる「阿魯雲伝」3部作(『玄海灘は知っている』『玄海灘は語らず』『勝者と敗者』)のご紹介。

まず第1部である『玄海灘は知っている』ですが、3分の2ほどの筋は映画と同じで、前回も書いた通り、後半、軍を脱走してからのストーリーが大きく異なります(原作→秀子の女学校時代の先輩を頼って彦根に逃走)。
つまり、映画にある名古屋大空襲下の逃亡劇とその後の群衆大殺到は、映画独自のものということです。
もちろん(?)、観客から笑いが漏れたあの迷場面「ひな祭りの不思議な日本舞踊」や「風呂場で湯女体験」も、原作には登場しません。

また、人物造型も原作と映画とでは異なる部分があり、映画では人間性のかけらもなかった(そのわりに滑稽味漂う人物だったりするのですが)森が、原作では阿魯雲に命を助けられたことによって、人間らしさを取り戻していくという件が見られ、また、阿魯雲に会いに日本へやって来た女性・鄭京姫も、ただ彼に会うためだけでなく、当時、抗日武装闘争の根拠地であった北間島に阿魯雲が脱出をするよう勧める目的を持っていた、ということになっています。
さらに、李家も原作では酒と女をこよなく愛する大男という、かなり豪快な人物に描かれていました(当初は阿魯雲と反目し会うものの、後に大親友になります)。

映画では空襲で亡くなったかと見えた阿魯雲が息を吹き返し、秀子と手を携えて去っていくところで終わりますが、原作は彦根へ逃れた2人のその後を描く第2部『玄海灘は語らず』、終戦後が舞台の第3部『勝者と敗者』へと続きます。
以下は、そのおおまかなストーリー。


『玄海灘は語らず』
秀子の女学校時代の先輩・道代を頼って彦根に来た2人でしたが、やがて居づらくなり、滋賀県大郷村(現・長浜市。このドキュメンタリードラマの舞台になった村です)の朝鮮人集落に身を寄せます。
集落に住む金山の好意で「方泰山」という偽名の協和会会員章を手に入れた阿魯雲は、干拓工事現場で働いた後、金山の仕事を手伝い始めますが、ある日突然徴用されて、秀子と離れ離れの生活を余儀なくされます。
徴用先を脱走した阿魯雲は秀子と2人で愛知へ戻り李家と再会、李家はなじみの女郎・カオルに2人の世話を頼みます。
その後、秀子は病に倒れた母を連れて瀬戸の親戚の許を訪れますが、そこで母の容態が急変、彼女は帰らぬ人となります。
一方、秀子が瀬戸にいることを知らない阿魯雲は彼女を探す途中で機銃掃射を受けて昏倒、軍によって助け出されるのでした。
死んだはずの阿魯雲が生きているとわかり、彼は軍法会議にかけられることになりますが、傷を治すために入院していた陸軍病院でついに終戦を迎えます。

『勝者と敗者』
終戦により軍法会議にかけられることを免れた阿魯雲は、原隊へ戻ることとなりました。
その後、秀子は男の子を出産しますが、李家等の説得に従い、自分と息子(知道)は日本へ残り、阿魯雲が再び日本へやって来る日を待つことにし、阿魯雲には故郷へ帰って祖国建設のために尽力するよう勧める手紙をしたためます。
阿魯雲は李家たちと船に乗り、1人故郷へ帰るのでした。


日本語版『勝者と敗者』は原語版の3分の1弱を削った短縮版になっていますが、第1部で人間性を取り戻したかに見えた森が、原隊に復帰した阿魯雲殺害を企てる件等、登場人物の性格にやや整合性が見られない点が気になりました。
また、秀子と阿魯雲の別れも、「あれしか方法がなかったのかなあ、あの頃は」と思いつつも、その後本当に阿魯雲は妻子を迎えに来ることができただろうかと考えると、少々暗い気持ちにもなりました。
阿魯雲のあの性格だと、故郷へ帰ってからもまた危ない橋を渡りそうですし。

ところで、映画で秀子を演じた孔美都里(コン・ミドリ、인물정보)は、1963年の『玄海灘の雲の橋(현해탄의 구름다리)』では終戦後朝鮮半島に置き去りにされた日本人女性に扮しており、共演した申星一(シン・ソンイル、신성일)との仲が取りざたされたそうです。
ちなみに、1964年6月4日付『読売新聞(夕刊)』掲載の「韓国の映画事情」では、この映画が「好日映画」として紹介され、当時東映で助監督を務めていた韓国出身の朴英勲氏の「統治者の日本は憎かった。しかし、いまの日本に対しては、もっと友好の度をつよめなければと、みな言っているのです。征服者と被征服者の間柄ではなく、お互いに理解し合った形でね」とのコメントが併載されています。

ということで、とりあえず、原作を読んでみてのご紹介でした。
『玄海灘は語らず』、アマゾンのマーケットプレイスだととんでもない値段がついていますが、「日本の古本屋」でなら良心的な値段でお買い求めできますので、皆様もぜひお手に取ってみて下さい。

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