2005年4月9日土曜日

レスリー・チャン 嵐の青春 (烈火青春)

〔えいが〕

1982年、香港(世紀影業)。譚家明監督。張國榮、湯鎮業、葉童、夏文汐主演。

というわけで、観ました。
香港電影最後烈火』等でストーリーは知っていたものの、実際に観て、いやはや、これがすごいのなんの。
特に後半、キャッシー(夏文汐〔パット・ハー〕)の恋人だった「転向」赤軍兵士・信介(そんなような名前だったと思う。翁世傑)の登場以降は、「パパはなんだかわからない」状態になりましたです(かんたんなあらすじは、こちらをご覧下さい)。

冒頭、金持ちお坊ちゃまのルイ(張國榮〔レスリー・チャン〕)が、自室でベッドに寝転がりながらある女性DJの声の録音テープを聴いているところから映画は始まります。そして、彼の部屋にあるテレビモニターから映し出される映像は、原宿竹の子族のビデオ。
で、それを流すモニターの上には大航海時代(帝国主義)の象徴のような巨大帆船の模型が置かれていて、あたかも竹の子族が文化による帝国主義を現しているかのような印象を受けずにはおれないのですが、その前に映るのが喜多川歌麿描く山姥と怪童丸(後の坂田金時)の母子像をアレンジした絵画で、ここでちらりと出てきた「母と子」というモチーフが、この後もくりかえし登場することになります。
例えば、冒頭でルイがテープを聞いていた女性DJはルイの亡くなった母親で、その母を今でもルイが慕っているらしいこと、さらには亡き母のイメージと恋人・トマト(葉童〔イップ・トン〕)のイメージとが重なっていき、後半ではトマトの妊娠を暗示する場面が現われて、新たな「母と子」像が提示されるのでした。
ですから結末のそれも、母と子の偉大なる勝利(?)に見えなくもありません。

また、本作にくりかえし現われるもう一つのものに「日本」があります。
先に述べた絵画や竹の子族の他にも、キャッシーが打掛を羽織って扇子を持ち、なぜか長唄『鞍馬山』(主人公は牛若丸!)の「セリの合方」にのせて踊ったり(『娘道成寺』の方がよかったと思うけど)、ルイが日本刀マニアだったり、トマトが原宿に憧れていたり、レコードショップのウィンドウディスプレイに「日本歌星大侵略」というキャッチコピーの看板を飾ったり・・・・。
中でも一番強烈なのは、初めに書いたキャッシーの恋人だった「転向」赤軍兵士・信介が彼女を頼ってやってきてから発生する一連の出来事なのですが、富裕層であるキャッシーやルイ、あるいは天真爛漫なギャル(死語)であるトマトが何の屈託もなく日本への憧れを口にするのに対して、庶民階級の出身であるキャッシーのボーイフレンド・トム(湯鎮業〔ケン・トン〕)だけは、日本人に対する反感をあからさまに表明します。
しかも、この信介という男、戦時中南京にいた父親(すかさずトムから「何人殺した?」と攻撃されるのですが)から教わったという流暢な北京語を操り(そこいらの香港人よりよっぽどきれいな発音)、「カンフーでやっつけてやる!」と怪鳥音を発しながら威嚇するトムに向かって「本当のカンフーは、声など出さない」と説教まで垂れて、中国文化の継承者という地位すらトムから奪ってしまおうとします。
ただ、トムが信介に向けるまなざしは、どうみても単純な反日・抗日というものではなく、嫉妬と羨望の入り混じった複雑な感情のように、あっしには思えました。
「うらんでもうらんでも、身体うらはら」(BY 石川さゆり)といったところでしょうか。

その後、日本人デザイナーの助手であるニセ山口小夜子みたいな女(以下、ニセ小夜子と呼びます)が登場、こいつが実は信介を粛清するためにやって来た組織のメンバーで、信介に「切腹」(組織の掟なのだそう)をさせるため、彼の行方を執拗に追い回し始めます。
結局、信介は切腹して(普通の日本刀でやってるもんだからさあ・・・・)、トムとキャッシーも巻き添えを食らい、ニセ小夜子はルイとトマトにも容赦なく襲い掛かるのでした・・・・。
いくらなんでも赤軍が日本刀振り回したり、切腹を迫ったり(「介錯!」と叫んだりします)というのは「ありえねー!」トンデモな描写ですが(武術指導は鹿村〔泰祥〕さん)、ここまでくるともはや「エクセレント!」な気分になったのもまた事実。「勝手にしやがれ!」って感じでしたわ。

ちなみに、英文タイトルは「Nomad(遊牧民)」。
ルイのお父さん(なぜか一度も登場しない。若い後妻は出てくるのに)が持っている帆船の名前で、どうやら冒頭に出てくる帆船の模型はその船の模型らしいのですが、ここに出てくる主人公たちの生き方も遊牧民みたいなものと言えましょう。
でも、帆船がアラブへ向かおうとするのは、赤軍とアラブの結びつきを意識してのことだったのかしらん?

なんだか支離滅裂になったのでこのへんでやめときますが、切腹男・翁世傑は『風の輝く朝に(等待黎明)』でも日本軍将校の役をやってますね。たしか、あそこでも軍刀振り回してました。
どう転んでもまともじゃないのか。

付記:ルイがトマトを追い回すオタク青年(トマトの顔写真がプリントされたTシャツを着てます。キモい)の家へ行き、とんだ災難に遭う件では大爆笑だったんですが、なぜか他のお客さんたちはニコリともせず・・・・。

(於:テアトル新宿)

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