2005年7月12日火曜日

バンコックの夜 (曼谷之夜)

〔えいが〕

張美瑤小姐。

1966年、日本・台湾・香港(東宝・台製・國泰)。千葉泰樹監督。加山雄三、張美瑤、星由里子主演。

寳島玉女・張美瑤、東宝での主演映画第2弾
ただし、香港ではこちらの方が前作(『香港の白い薔薇』)よりも先(1967年3月)に上映されました(『香港の白い薔薇』は1967年5月)。
今回は、宝田明と尤敏の香港3部作(『香港の夜』『香港の星』『ホノルル・東京・香港』)を手がけた千葉泰樹監督がメガホンをとり、いささか古風ではありますが、手堅い仕上がりのメロドラマにまとめています。
わたくし的には、『香港の白い薔薇』よりもこちらの方が好きです。

この作品、千葉監督の起用の他にも、『香港の星』で脚本を担当した笠原良三がやはり脚本を執筆しており、そんなこんなで香港3部作、中でも『香港の星』及び『香港の夜』との間にいくつかの共通点を見出すことが出来ます。

1、主人公が医師
『香港の星』では、尤敏演じるヒロイン・王星璉が日本で医学を学んだ後、シンガポール(及びクアラルンプール)で結核治療に取り組む医師を演じていましたが、本作では加山雄三がインターンとして登場、バンコクで風土病研究に打ち込みます。
ちなみに、『香港の星』シナリオ第1稿では、結核ではなく東南アジアの風土病研究を学ぶためにシンガポールに行く、という設定になっていました(没ネタ復活?)。
本作で加山の上司となる田崎潤は、『香港の星』でも東大医学部の教授役で登場。
尤敏と加山が学ぶキャンパスも、同じ場所でロケしているのですが、どこなんでしょ、あそこ。

追記:問題のロケ地、今はなき昭和薬科大学世田谷校舎ですた。
現在の姿は、こちらをご参照下さい。


おまけ:同じく、今はなきホテル・エンパイアも登場。


2、命の恩人
『香港の星』では、尤敏の父・王引が、戦時中に砲弾を受けて負傷した日本軍兵士・山村聡(団令子の父)の手術を行い、それに恩義を感じた山村が日本留学中の尤敏の面倒をみるという設定でしたが、本作では植民地時代の台湾で医師をしていた加山の父(戦死)が、張美瑤の祖父の胃潰瘍を手術したということになっています。
尤敏も加山も2代目の医師なのですね。

3、恋のライバル
『香港の夜』では宝田明の幼馴染である司葉子が、『香港の星』では尤敏の親友である団令子が恋のライバルとなりますが、本作では加山に家庭教師をしてもらっていた張美瑤の親友・星由里子がライバルとなります。『夜』と『星』の折衷案といったところでしょうか。
ただ、本作の2人は『香港の星』のように黙って身を引くようなことはせず、女同士の話し合いで加山との間をどうするのか選択する点が、少しは現代的かも。
星由里子がピアノに専念するため恋を諦めるのは(勿論、加山の気持ちが張美瑤に傾いているという理由もあるのですが)、『香港の夜』で絵の勉強に専念する司葉子の姿と少しダブります。

4、友達はいつも藤木悠
『香港の夜』『香港の星』で宝田明の友人(同僚)役だった藤木悠が、ここでも加山の友人役として登場、あやしいタイ語を操っています。
藤木悠と香港経由でタイへ向かう途中、ふと思い立って加山は香港から台湾へ飛び、張美瑤と会うのですが、香港啓徳空港の着陸シーンは、『ホノルル・東京・香港』あたりからパクってきている可能性大。

5、ムーディな歌と踊り
『香港の夜』『香港の星』では尤敏が歌い、本作ではほんのちょっとだけですが、張美瑤が『相思河畔』を歌っています(原曲がタイの歌〔らしい〕であることから使われたのだと思います)。
さらに、本作ではピーター、もとい、越路吹雪大先生が歌うためだけにご出演なさっています。
ナイトクラブのダンス&ショウタイムも、なぜかいつも登場。

6、やけ酒
『香港の星』では尤敏に拒絶された宝田明がやけ酒かっくらった後に草笛光子に迫られ、本作では張美瑤の縁談を知った加山がやけ酒飲みつつバンコクの夜を満喫(?)、ホステスの家で目を覚まします。

以上、思いつくまま記してみましたが、まだ他にもあるはずです。

張美瑤は、今回は天然系お嬢様。
日本の短大を出た後、父の会社の日本支社(叔父が支社長)で働いていますが、勤務中に爪磨きなんかしている窓際OLです。
が、天然系だけに、愛する加山と一緒になれないとわかった時にとる行動も無茶そのもの。
助かってよかったけど。
彼女、一応「タイ華僑」という設定なのですが、生まれは植民地時代の台湾で、つまり本省人。
戦後、親子でタイへ移住、貿易会社を興して成功した(らしい)、新興の華僑ということになります。
彼女の両親がタイの公爵家との縁談に狂喜乱舞したのは、いわば新参者である自分たちが、タイ社会へより深く食い込むためのステップアップの手段としてこれほど有効なことはない、といった打算も多分にあったのでしょう。
どうやらここでは、『香港の夜』にあったような、国籍や民族の違いが恋愛の妨げになるといった問題は存在していないようです。
ただし、本省人であれば、本来なら家庭内での会話は台湾語(ホーロー語。客家だとしたら客家語)になるはずですが、ここでは全て北京語での会話となっています。
張美瑤の祖父があっさり「日本語を忘れた」と言うのも、ちょっとおかしいですし。
あの時代の台湾の言語政策が透けて見えるようです。

星由里子は、可愛げゼロのわがままお嬢。
清水寺を3人(張、星、加山)で観光するシーンがありますが、あそこであっしは清水の舞台から突き落としたくなったほどです。
ま、損な役回りなんですけどね。
映画の中盤で、早々に加山を張美瑤に譲って(物じゃないんだから)、自分はリタイア。

加山雄三は、明るくない方の彼の魅力がよく出ていたと思います。
以前、タイ映画祭の折に観たとき、上原謙(星由里子の父)が「君のお父さんは、立派な方で」とか言うたびに場内大爆笑になっていましたが、その手のネタで言えば、上原謙が青大将の父親役をやっていた『日本一の若大将』の方が、爆笑度が上かも。

ところで、張美瑤の叔父を演じていた李嘉、『海辺の女たち(蚵女)』や『雷堡風雲』の監督(『海辺~』は李行と共同)と同姓同名なのですが、同じ人なんでしょうか?
こちらの写真を見る限りでは、別人のようなのですけれど。

(於:チャンネルNECO)

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