〔えいが〕
1942年(公開は43年)、中国(中聯・中華電影・満映)。卜萬蒼、朱石麟、馬徐維邦、張善琨、楊小仲監督。高占非、陳雲裳、袁美雲、王引、李香蘭主演。
今日は蒸し暑かったですね。
蒸し暑いので、フィルムセンターに行ってきました(かんけーないけど)。
午前中、本業の方の用事があったのですが、そこを途中でフケて(すいません)、駅のコンビニでおにぎりとパンを買い、急ぎ京橋へ。
絶対に混むと思っていたので、早め早めにと考え、午後1時15分過ぎに着きました。
しかし。
すでに20人ほどの老老(老若じゃなくて)男女が待っておられました。
あっしも列の最後尾に加わり、そのときはまだ椅子に腰掛けられたのでそそくさと昼食を摂ります。
そうしている間にも人は増え続け、今度は玄関ホールに移動、並んで待つことになりました。
でも、こうやって立ちっぱなしで待ち続けるのって、あっしのような中年女子はまあいいとしても、他のお客様(70代~80代が大半)にはかなりしんどかったのではないかと思います。
玄関ホールから階段に移動したところで、老老男女の皆様は案の定口々に「しんどい」とつぶやき始めましたが、それに対するケアは特になし。
そのあたり、もう少し工夫できませんか?フィルムセンターさま。
その後、通常の開場時間(2時30分)よりちょっとだけ早めにようやく入場可となり、さっさとお金を払って入場、真ん中より少し前の席に陣取りました。
で、映画です。
内容その他については、山口淑子の『李香蘭 私の半生』に詳しいので、そこからちょこっと引きます。
一九四二年(昭和十七年)は、阿片戦争で中国がイギリスに敗れ、屈辱の南京条約締結を強いられて百周年にあたる。それにちなんだ企画で、阿片撲滅のためイギリスと闘った林則徐を描いた古装片(時代劇)である。タイトルは、"林則徐の義挙は永遠(萬世)に薫りつづける(流芳)"-という史劇のサワリから引用し、『萬世流芳』と決まった。(略)
物語の中心は高占非演ずる林則徐で、袁美雲はその貞淑な妻の役。陳雲裳扮する張静嫻は林則徐に恋をするが、思いがかなわず、阿片の害を防ぐ薬作り(戒煙丸。阿片中毒を治す薬・せんきち注)に励むことによって林則徐を支援する。そして最後には男装してイギリスに対するレジスタンス運動の先頭に立つという『木蘭従軍』ばりの活躍である。私の役は、阿片窟でアメを売りながら阿片の害毒を歌でキャンペーンする人気娘、というサイド・ストーリーのヒロインだった。
多くの文献で触れられている通り、本作は、日本人が観れば野蛮な西洋人に立ち向かう東洋人の映画となり、中国人が観れば日本軍に蹂躙されている祖国を救うために中国人よ立ち上がれという映画になる、いわゆる「借古諷今」の作品です。
そう考えてみると、あのほとんどギャグと言いたくなるほど徹底的に戯画化されたイギリス人(うち1名厳俊)の姿も、もしかしたら日本人に対する痛烈な皮肉なのかも知れないと思いました。
タイトルバックから、あっしの大好きな「賣糖歌」がインストルメンタルで流れ、老老男女お目当ての李香蘭は中盤になって登場(ここで会場内沸く)、名曲「賣糖歌」を華麗に歌い上げます。
劇中の李香蘭は、父が阿片中毒になって身代をつぶし、ために飴売りをして生計を立てている鳳姑という可憐な娘の役で、愛する潘達年(王引。林則徐の友人)の阿片中毒を治すために献身的に尽くします。
ただ、尽くすといっても、かいがいしく仕えると言うよりはむしろ彼を叱咤激励して阿片の罠から救い出すという、主動的な役割を演じています。
陳雲裳演じる張静嫻も、林則徐との縁談が破談になった後、悲しみにくれるのではなくそこから逆に自分の人生を積極的に切り開き、最後は義勇軍のリーダーとして敵弾に倒れるりりしい女性ですし、袁美雲演じる林夫人も単なる貞淑な妻ではなく張静嫻と夫との過去を知りながら彼女を高く評価し、林が振った女性がどれほど素晴らしい人物であったかを改めて彼に認識させるという度量の大きな女性です。
つまりこの映画、林則徐が主人公とは言いながら、実は彼(及びその友人・潘)を巡る女性たちを描いた映画でもあったのでした。
だもんで、タイトルの由来となった"林則徐の義挙は永遠(萬世)に薫りつづける(流芳)"も、劇中では張静嫻の行為を称える言葉として使われています。
ところで。
『李香蘭 私の半生』の中に、李香蘭が王引の潜む山小屋に駆けつけるシーンを撮影するさい、卜萬蒼の上海訛りのきつい北京語が聞き取れず李香蘭が困っていると、王引がノックをする仕草をして「敲門(ちゃおめん)」と言っていると教えてくれたという件が出てきますが、じっさいの作品ではこのような場面はなく、阿片窟で騒動を起こして逃げてきた李香蘭と王引が、彼女の祖父が住む家に身を寄せる、そのときに李香蘭が祖父の家の扉をノックをする芝居がありました。
おそらくは、ここのことなのだと思います。
(於:フィルムセンター)
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