2011年5月7日土曜日

三本指の男

〔えいが〕
1947年、東横映画。松田定次監督。片岡千恵蔵、原節子主演。

どうも。
トド@再び心を入れ替えて少しは更新するようにしますです。

少し前に観た映画のメモ。

1946年に発表された横溝正史の金田一耕助シリーズ第1作『本陣殺人事件』の映画化作品。
「片岡千恵蔵主演、松田定次監督、比佐芳武脚本」という『多羅尾伴内』トリオによる、金田一耕助銀幕初お目見え作品であります。

ご周知の通り、金田一耕助といえばもじゃもじゃ頭によれよれ袴というのがそのいでたちですが、当時はまだ第1作が発表されたばかり、金田一のキャラクターも一般にはなじみのないものだったせいか、本作の金田一はスーツにソフト帽というスマートないでたちで、しかもアメリカで生活をしていたというきわめてバタ臭い(死語)キャラクター設定となっております。

そして、事件のオチも原作では新妻の不貞を嫌った長男が妻を殺して自分も自殺、それを密室殺人に見せかけたのに対し、本作では一柳家の莫大な資産をめぐる確執&保険金目当ての殺人(ぎゃあ、あんなところに隠し通路が!忍者屋敷か!)という異なるオチを採用しています。
そして、片岡御大演じる金田一は「この殺人事件を生んだものは封建制度だ!」と悪しき因習を糾弾するのですが、それがまるで「日本は自由と平等の国になったのだ」と謎解きついでに民主主義の素晴らしさを熱く説いているかのようにも見えて、これってやっぱりGHQへの配慮なのかしらん?と思ってしまいますた。
となると、金田一がアメリカで生活していたという設定も、「アメリカ生活で自由と平等を肌で感じた日本人」という戦後の新しい日本人像に沿う設定だったのかも知れません。

ところで、本作はGHQによって「殺人」の語を用いることが禁じられたため『三本指の男』というタイトルになったらしいのですが、それにより映画の序盤から三本指の男が大きくクローズアップされることになって「新妻にかつて執心していた男が戦争で怪我をして三本指になった→婚礼当日にその男が出現→その男が犯人ではないか」という経緯を辿ることになるものの、ふたを開けてみれば婚礼当日に現れた三本指の男は金田一の変装だったという、色々な意味であっと驚く展開をみせていました。
それにしても、金田一が変装の名人だったって、多羅尾伴内じゃあるまいしと思いますけれど、前述したように金田一のキャラクターがまだ一般に浸透する以前のこと、制作サイドとしては多羅尾伴内的な要素を盛り込んだ方が観客も喜ぶと考えたのでしょう。
このさい、いつどこで変装したのか?や、常に変装道具持参なのか?という疑問も、とりあえずは不問ということで。

しかし、就寝時でも眼鏡を外さなかった原節子が、映画のラストではちゃっかり眼鏡を取って御大にラブラブ光線を送るというのは、まあ予想された結末ですけれど、眼鏡フェチのわたくしとしてはやはり残念なものが残りました。
御大も「あなたは眼鏡を外したほうが綺麗だ」等と言わず、「あなたは眼鏡をかけなくても美人だろうが、眼鏡をかけているともっと美しい」とかいう殺し文句を吐いてほしかったです(無理か)。

そんなわけで、ミステリファンや横溝正史ファンにはあんまり評判のよろしくない本作ですが、時代背景その他を考慮するとなかなか興味深い作品でありました。

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